声優プロダクションのマウスプロモーションは今年で設立50周年。
その記念公演の舞台劇「ぼくの好きな先生」を観てきました。
いつもは「声」の演技を堪能させていただいている方たちの生の舞台はとてもよかったです!
私の行ったのは初日10月2日。場所は両国のステージⅩ(カイ)です。
<内容>
谷藤太の戯曲です。
・起
主人公は中学教師の河合。彼の部屋には中学生の馬場が入り浸っている。
馬場は不登校児らしい。河合には馬場の来訪を拒めない事情がある様子。
恋人の玲子(後で明かされるが河合とは中学時代からの付き合い)は妊娠しており、狭いこの部屋では玲子と生まれてくる子供と暮らすことは難しいので引っ越しの準備中だがなかなか進まない。
玲子も馬場に「たまになら来てもいいけど」と拒み切れないものがあるらしい。
何故馬場は河合と玲子に執着するのか。何故学校に行かないのか。
・承
河合の部屋の本棚から「先生」が飛び出してくる。
コルチャック先生、「坊ちゃん」と呼ばれた着物と袴の先生、イーハトーブの宮沢賢治、『いまを生きる』のキーディング先生。彼らは「会議」に参加するためにやってきた。
他にも坂本金八先生やアニー・サリバン先生(かっこいい!)もやってきたが会議には出席しないのですぐに立ち去っていった。
・転
馬場と河合&玲子の事情が明かされる。
先生たちも教え子にとって完璧な存在ではなかった。
・結
教育とは、親子の愛とは、先生と教え子の間柄とは、それらに正解はない。
物語は希望のあるハッピーエンドを迎える。
面白い舞台でした!
中学生男子や小学生女子(!)を演じた方は本当にすごい!
横溝ファンとしては朗読LIVEの綾音~AYANE~でおなじみの古川玲さんが「スーツの女」として登場していて、素敵なキャラクターを堪能させていただきました。
この時に会場でいただいたパンフレットにて来年2月の情報が先行発表されていました。
「女王蜂」楽しみです!
以下、物語のネタバレには触れませんが「先生」たちのネタバレがあります。
またいじめや戦争について、不快に感じるかもしれないことや、差別的な言葉が出てきます。
河合は教師としていじめを撲滅したいと思っており、実際にいじめをしていなくても「傍観者にも責任がある」と主張しています。
ある作中人物は小学生の頃にいじめていた女の子のことを思い出します。
彼女は肌に赤いところがあったので皆は彼女を「原爆」と呼び、臭い、触るとうつるといじめていました。
彼女は毎朝登校前にお風呂場で体を洗います。ごしごしごしごしごしごしごしごし…
いじめていた男児も大人になり、結婚し、子を持ちます。
その子がアトピー性皮膚炎であったため、過去のことを思い出します。
これは私の推測ですが、彼女は皮膚炎を患っていたのでしょう。もし臭かったとしたらそれは炎症の塗り薬の匂いのせいだったのかもしれません。
肌をごしごしとこすっていたら余計に赤味は増したでしょう。
大人の彼と小学生の彼女は会話を交わします。
本当は彼女は臭くなかった。でも皆で彼女をいじめていた。
あの頃の彼女に謝りたいけれどもう遅い。
いじめを傍観していた者は言います。いじめられっ子がマットで巻かれていたのを見て「いじられて喜んでいると思っていた」と。
葬式ごっこがあり、いじめられっ子の机には花瓶が置かれ、皆で「死んだ」子のためにお悔やみの言葉を書いた寄せ書きが渡されます。教室に入ってきた先生は「子供の遊びだから」とスルーします。
いじめられっ子にも優しくて好感を持たれていた少女は「関わると自分もいじめられる」と彼を避けるようになります。
いじめを受けた子が学校に行かなくなり、家にも居場所がないとどうなるのか。
最悪の事態を迎えた時に部外者は言います。「死のうと思うなら何でもできたはずだ」と。
先生たちには理想がありました。
キーディング先生の教え子には銃での自死を選んだ者がいました。
コルチャック先生の教え子は、そして先生自身も収容所での死を迎えました。
コルチャック先生に子供を守れなかった罪はあるのか。
ナチスが行った人種差別といじめでの理不尽な差別に違いはあるのか。
大人がいじめられっ子に「いじめていたことを反省しているから許してあげなさい」と言うのは簡単なこと。ではナチスのことは許すべきなのか。
観終わってからしばらくの間いろいろと考えさせられました。
今現在も外国では戦争が起きています。
学校でいじめられている子供もいるでしょう。
大人の世界にも性別や国籍や諸々の差別はあります。
「いじめはよくないこと」とは皆わかっているはずです。
そして「差別はよくないことだから」を理由にすべてを受け入れることもまた難しいことです。
家庭での育児も親の理想通りにはいかないことも多いでしょう。
親が子に、先生が教え子に、愛情を持って教育することはとても難しいことです。
そういったことに「正解」はないと思います。
舞台の上では実際はそうはなれなかったけれど「大人」になったコルチャック先生の教え子たちが先生に受けた愛への感謝を語ります。
「いい先生」には、「いいお父さん・お母さん」にはどうすればなれるのか。それにマニュアルはないと思います。
重いストーリーでした。でも面白い舞台でした。
行ってよかったなあ!