綾音~AYANE~朗読LIVE vol.9
市ヶ谷 劇空間えとわ~るにて
原作:横溝正史『壺中美人』 角川文庫ページはこちら
2023年10月29日(日) 18:30~
今まで映像化されたことのない作品『壺中美人』が初めて朗読LIVEという形で上演となりました。
(ビジュアル化は原型作品『壺の中の女』のコミカライズのみ。それも単行本という形での発売はされていません)
私はこの作品が大好きなので嬉しいことでした。
※犯人やトリックには触れていませんが、登場人物の設定、内容等のネタバレを含みます
※記憶によるものの覚え書きなので実際の公演とは差異があるかもしれません
<内容>
昭和29年4月5日の夜。金田一耕助と等々力警部はたまたま点けていたテレビ番組で支那曲芸を見た。支那服の若い女が壺に入るものだった。
5月26日。陶器収集家である画家の井川謙造がアトリエで殺害されているのが発見された。住み込みの女中である宮武たけは支那服の女が壺に入ろうとする姿を目撃したという。
井川はテレビ番組を見ていてその壺に興味を持ち、懇願して譲り受けた。テレビに出演していた壺入りの太夫・楊華嬢は25日の夜から失踪している。井川殺害の犯人は華嬢なのか。
<メモ>
舞台には椅子が4脚置かれ、左手にスクリーンが設置されている。
男女ふたりずつのキャストによる朗読でこの日は皆和装。
亀井芳子さんは金田一耕助役。
座長の古川玲さんは井川マリ子と宮武たけを演じ分け。
加藤将之さんは等々力警部、井川虎之助、他男性役を。
佐々木啓夫さんは楊祭典、ブルドッグの譲次、宮武敬一(!)他男性役を。
ナレーションは4人が交互に行う。
そしてバイオリン演奏はいざべるさん。
内容は基本的に原作通り。
花屋の京子は直接登場せずに警察が「京子はこう証言していた」という説明であったり、金田一の朝食メニューは語られなかったりと多少のカットはあるが改変はなし。
スクリーンには杉本一文先生による角川文庫表紙イラストがイメージ画として映し出され、井川の家族関係や事件の夜のたけと支那服の女の動きなどの説明がスライドで映し出される。
マリ子が登場すると女性のイメージ画が映し出されるが…これは杉本先生の版画では!
美しいバイオリンの音色と杉本画とのコラボレーションはよい…
今回の公演を知って思ったのは、かわいらしい雰囲気の古川さんはチャイナ服を着るのかということ。しかし作中で華嬢はテレビ画面やブロマイドで姿を見せるが本人は失踪していて言葉を語ることはない。
ならばマリ子役だろうと思っていたけれど、宮武たけと二役だったとは!
原作では敬一が同性愛者であることは(書かれた時代的なものでもあるが)金田一も刑事も変態的なもの、病癖なものであるという視点を持っている。
この朗読LIVEでは「変態」「オカマ趣味」という言葉はカットされ「昔の色子」という言葉は残った。佐々木さんの演じる敬一は女性的な声ではないが、そのために女形のようなものを思わせるものがあった。
この物語は偽りの愛の物語。
譲次のマリ子への愛は真実のものだけれど、マリ子は自分を支配するような強い男でなければ満足できない女。
そして10年近い時間を共に生きた相手でももうこいつは使えなくなってきたと判断したら切り捨てる者もいる。
譲次も、ある者も、愛した相手には自分のできることで協力し、望まれることには応じるけれどそれは愛を利用されただけだった。
金田一ははじめからある点に気付いていた。
事件は井川がアトリエを訪れた女によるもの。花屋でバラの花束を買ったのは華嬢であり、アトリエにはバラの花が残されていた。普通に考えれば華嬢が殺害犯としか思えない。
だがある人物の姿を見て金田一は井川の隠されていた嗜好に気付いた。
この話は本格ミステリではなく、東京という都市で悪い男が戦後の時期に頼るもののない女や未成年を弄んだものであり、事件が解決してもそれでハッピーエンドとはならず、「世界犯罪史上にもこれほど残虐な犯人はないだろう」という人物の闇が明らかになる。
楽しい話ではないけれど、私は好きです。
「そこにはいない」が存在感のある華嬢。
稀代の悪女なのか?悲劇のヒロインなのか?不器用な女マリ子。
ふたりのドラマにはいろいろと感じいるものがあります。