朗読劇『不死蝶』観てきました

ミステリー専門劇団回路R公演
成城 アトリエ第Q藝術にて


原作:横溝正史『不死蝶』 角川文庫ページはこちら

2023年10月27日(金) 19:00~公開ゲネ
2023年10月28日(土) 18:00~
2回行きました。

※犯人やトリックには触れていませんが、登場人物の生死、内容、舞台演出等のネタバレを含みます
※原作との照合はしていません
※記憶によるものの覚え書きなので実際の公演とは差異があるかもしれません

<内容>
戦争が終わって7年、犬神家の事件から3年。信州の湖畔の街・射水が舞台。
名探偵金田一耕助は名家である矢部家の当主・杢衛からの依頼で訪れる。
ブラジルのコーヒー王の養女となったマリは来日中、母・君江の静養のために東京を離れて射水に滞在する。杢衛は君江は23年前に息子である英二を殺害した容疑者であり、生死不明の玉造朋子と同一人物ではないかと疑い、金田一に君江の身元調査を依頼した。
杢衛の孫娘の都と玉造家の康雄はロミオとジュリエットのように敵対する家に生まれながら愛し合う間柄。
マリが主催するパーティーの夜、夢遊病の発作で鍾乳洞へと彷徨う君江を何人かが追った。
杢衛は英二と同じように鍾乳石で胸を刺されて死亡し、君江は姿を消した。
それはまるで23年前の事件の再現であるかのように――

<キャラクター>
金田一耕助
犬神家の事件や迷路荘事件に関わった名探偵。
依頼人の杢衛の死によって高額の手付金を返却しなくてはいけないかと相談するところがいい。

【矢部家】
杢衛
70歳の当主。跡継ぎの慎一郎と愛し合い、可愛がっていた息子である英二を殺した(と思われる)朋子を憎む。
若い頃に乙奈と恋をし、家も財産も捨てる決意をしたが乙奈は他の男と結婚した。
最期の言葉(この劇オリジナル)が胸を打つ。

慎一郎
杢衛の長男。23年前に婚約者がいたが朋子を愛し、駆け落ちを決意したが英二殺害事件が起き、朋子は生死不明となった。
文学者タイプで序盤は陰が薄いが、父のある言葉で激昂した時の怒鳴り声は会場を震わせた。

峯子
慎一郎の婚約者から妻となった。高圧的でイヤな女。だがそこがいい。
赤い衣装が映える。


慎一郎と峯子の一人娘。金田一との身長差は推しポイント。
清純な令嬢タイプ。

宮田文蔵
峯子の兄で矢部家の番頭。都を実の娘のように可愛がる。
終盤の演技は圧巻。

古林徹三
矢部の遠縁。若い頃は「杢衛の鉄砲玉」で本人も「杢衛の家来」と自嘲する。
遠目で見た君江の姿を朋子と認識した。

【玉造家】
乙奈
和服が似合う現当主。婿も子も失った中で玉造家を守るが農地改革もあって家は没落。
別館をマリたちに貸して得られる賃料で暮らしていけることに屈辱を感じる。
若い頃に杢衛と恋をしたが、最終的に親の選んだ婿と結婚した。
杢衛にかける最後の言葉には泣かされた。

康雄
乙奈の孫。先々代、先代と同じ過ちは繰り返さない。自分の世代で矢部との確執を解消させるということと、叔母である朋子の冤罪を晴らしたいというしっかり者。

由紀子
康雄の妹。ロイド眼鏡にみつあみにセーラー服に白いソックスが似合う女学生。
頭の回転が早く、酔っぱらいのあしらいにも長け、台所仕事も率先して手伝うしっかり者。
特技は頭突き。

お作
白いエプロンの似合う女中。カツカレー南蛮が食べたい。
峯子を怖がる(それは皆そうらしい)

【その他】
鮎川マリ/マリーナ・ゴンザレス
黒いドレスが似合うブラジルからやってきた娘。田代いわく「美人でスタイルがよくて頭もよくて気持ちもやさしい」。情熱の赤い炎というよりは静かに燃える青い火のタイプ。母の願いを叶えたいいじらしさと真実を追究したい芯の強さを持つ。

河野朝子
ネイビーのツーピースが似合うマリの家庭教師。
厳しく見えるがマリと君江を助ける心根は優しいタイプ。

カンポ
マリのボディーガード。ジュージュツ(柔道ではない)の使い手
彼の作るブラジル料理は美味しいらしい。歌も歌うらしいが劇中では披露されず。

ニコラ神父
長身で「洞窟の中でこんな外人に会ったら逃げ出す」と言われれば納得するような外見。若い頃は街の不良だったが悔い改めて神父になったのはここだけの話。
峯子は朋子がニコラ神父を色香でたぶらかして逃亡に協力させたと主張している。

田代
康雄の友人。ブラジルでマリたちと親しみ、君江に会えないことを残念がる。
空気の読めないお調子者だが憎めない男。
テニスをやっていたとは言っていたと思うがチャン設定あったっけ?
玉造家に滞在中の家賃は払っている。

立花町子
町長の娘で医者。鮮やかなグリーンのパーティードレスを纏っているときはさばけたお姉さんとして人目を忍ぶ恋人たち(あまり忍んでいないような気もするが)を冷やかしたりせずに見守り、白衣の医者としては杢衛(と観客)に夢遊病の症例を説明したり、連続殺人事件被害者の検死をしたりと大活躍。

神崎署長
射水の警察署長。峯子によく怒られる。
決めぜりふは「よーし!わかった!」

うし
金田一と汽車で一緒になった隣のおばさん。金田一(と観客)に射水についてや人間関係についての解説役となる話上手。

<メモ>
元々は2020年に舞台劇として上演予定だったものが諸般の事情で公演延期→中止となったもの。
朗読劇としての上演となったが、キャスト皆に見せ場があり、笑いも涙もサスペンスもありの脚本・演出は素晴らしいもの。

舞台は後方の黒い幕と演壇があり、登場人物は基本的に右手から登場し、左手から幕の後ろを通って退場する。
マイクを使わず、立っての朗読で例えば乙奈は杖を手にしていることになっているが、演者は和服着用でも背筋を伸ばして玉造家を支えた風格を示している。

・犬神家の事件時に妊娠中だったあの女性は男児を生んだとのこと

・金田一がこの時代でも和装でいる理由は『蜃気楼島の情熱』で語られていたもの

・上記のキャラクターに記載していない通り、君江は直接は登場しない。
それでも古林や康雄と都は「あそこにベールを被った女がいる」ということを遠くを凝視する様子や口調で観客に伝える。

・カンポの語り口がいい。「お嬢さま」ではなく「オッ嬢サーマー」(ニュアンスが伝わるかな…)

・若いカップルを冷やかす金田一の口笛ヒューはゲネの時にもあったっけ?

・田代は金田一に過去の事件の話をせがんだらしい
犬神家事件と八つ墓村事件の違いは「足が出る方が犬神家」

・ニコラ神父の語る「神は乗り越えられることを試練として与える」泣ける…

・慎一郎の娘への愛。康雄の選択。原作では描かれていなかったことだけどよかったねえ!という気持ちになった

・事件解決後に金田一はマリに望まれて「ぼくの空想による物語」としてもうひとつの解決を語る。愛によるある行動を原作では「日本人のもつ愛情。(ネタバレ)」と言っていたがここでは「日本人の~」はカット。

・一年後、ある用事で射水を再訪した金田一はうしと再会する。
語られるあの後の人々の動向。
金田一は「那須の化け物屋敷」に関心がある。
そして物語は『廃園の鬼』へと続くのか。

・エンディングは明るい未来を感じさせるもの。
不死蝶はここに甦った!

・感動のフィナーレ
観客の拍手は手拍子となり、演者も観客も皆笑顔になる。

<雑感>
慎一郎の心は23年前に死んでいたのかもしれない。
仮に朋子が英二を殺害したのだとしても、自分になら真実を語ってくれたのではないか。それなのに彼女は何故何も言わずに去ったのか。(自殺したとは思っていないだろう)
君江を追って入った鍾乳洞で昔のように迷路のような道を歩んで、そして皮肉なことに父の殺害事件によって心を取り戻したのか。

男女の結び付きは恋情によるものだけではない。
恩人の娘を自分の息子の嫁にという計らいは善意によるものではあったが慎一郎にとってはおそらく婚約時代からずっと峯子に対して妹に対するような感情はあったかもしてないが、妻としての愛情を抱いたことはなかっただろう。
ある男女は人目を忍ぶ間柄であったが、それは愛と呼ぶものではなく、欲を満たすものとか、寂しさを埋めるものとか、利用の手段とか、秘密の代価というものであったかもしれない。

文蔵も古林も異国(フィリピン、満州)に渡り、戦争で財産も家族も失ってただひとりで帰国し、矢部家を頼らなくては生きていけなかった。
矢部家の番頭となった文蔵と、峯子に使用人と侮蔑される古林は本質的には同じか。

これは愛の物語。そして再生の物語。
かつて杢衛と乙奈は愛し合ったが、乙奈は恋人に家名や財産を捨てさせることを望まず、家のために他の男を婿に迎えた。
23年前の慎一郎と朋子の愛は周囲によって引き裂かれ、朋子は行方知れずとなった。
現代の康雄と都の愛、そしてもう一組の「いい感じ」のふたりは新しいかたちで未来に向かっていくだろう。
未来の矢部家と玉造家には確執はもうない。

「峯子は」ではなく「峯子の」ですね…

「八つ墓村と犬神家の一族混同問題」についてはこちらのTogetterまとめがおすすめです。

八つ墓村・犬神家混同問題トートバッグまとめ

うしが語る「さる」「ひひ」「ましら」というキーワード…これは次作への引きですね!!!

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