ミステリー専門劇団回路R公演「あの日見た、生首が三つ四つある塔の場所に、僕たちはまだ辿り着けない」は優れたサスペンス作品でした。
ネタバレを抑えた感想を別に書きましたが、やはりネタバレについても語りたい!!
そんなわけでネタバレ全開です。
台本はお手元にありますか?ない方は通販を!
【時系列】
※「現在」がいつなのか作中では語られていませんが、上演時の2024年をベースとしています。実際にあったこと以外は多少のズレがあるかもしれません。
1965年
上杉欣造、斉藤雪子生まれる
1974年
映画「ドラゴン危機一発」日本公開
1975年
若村亜由美、牛原紀香生まれる
1977~1980年頃
横溝正史ブーム「たたりじゃ~」が流行語となる
1983年
欣造、雪子大学入学
後に交際
1984年
ロサンジェルスオリンピック開催
男子マラソンで瀬古利彦、宗猛、宗茂選手が注目を集めるがメダル獲得には至らず
1985年
テレサ・テン「愛人」大ヒット。紅白歌合戦に出場する
東桜、森田ひかり、潘任三郎、浅丘権太、瀬古猛・茂生まれる
1989年
ふるさと創生事業で追蓮村に遊園地開業
雪子、「獄門塔」のアトラクション担当となる
その後遊園地は閉園。雪子は「獄門塔」の管理人になる
1994年
ドラマ「古畑任三郎」放映
「獄門塔の事件」が起きる
桜、階段からの転落により入院。記憶障害となる
ひかり、崖からの転落により入院。記憶障害となる
桜の両親死亡
桜、母の弟である欣造に引き取られ上杉姓へ。千葉県船橋市へ転居
ひかり、親の仕事の都合で神奈川県横浜市へ転居
この時点で欣造は既婚
2004年
口論により権太、猛を過失で死なせてしまう
茂、猛の死体を埋める
広海、廃墟の写真を撮影に来て茂を目撃。その行動を写真に撮る
欣造、雪子と別離
その後追蓮村はダム建設のために水没・消滅
時期不明
権太、性転換手術を受けて女性体になる
権太、シャンソン歌手となりリリー浅丘を名乗る
ひかり、縄文杉探偵の助手となり二代目ピッカリを名乗る←「入社早々」という言葉が出てくるので最近のこと?
2023年
欣造の妻死亡
2024年
一連の事件が起きる
【登場人物と作中の仕掛け】
東(あずま)桜→上杉桜(演:9歳時 紅城文乃 39歳時 田幸チカ)
9歳のアズはボーイッシュでハキハキした少女。39歳の桜は優雅でお嬢様風。
このふたりが同一人物であると序盤から気付いていた人はいるのだろうか?
両親の会社がイースト・コーポレーションであることは序盤で語られていた。
桜は獄門塔でのできごとは明確な記憶がなく、繰り返し夢に見ることを現実だと思っていた。
たたり婆さんが侵入者を氷漬けにしようとする。モリタンがアズを突き飛ばす。アズは生きたまま「人間花氷」とされる。
それは幼い頃に見た遊園地のアトラクションの内容と現実が混ざり合ったものだった。
記憶はなくとも責任感の強いアズは心の底では友であったモリタンを悲しませたことをどこかで悔やんでいたのではないだろうか。彼女が悪いわけではないのだが。
だからモリタンによってたたり婆さんに差し出され、人間花氷にされる贖罪の夢を見たのではないだろうか。
紅城さんは「不死蝶」では可憐な都を演じたが「黄金仮面」では小林少年役で「女優が美少年を演じ、さらに小林としてメイドに扮する」というシチュエーションで一部を狂わせたが(私もです・笑)今回は細い手足でボーイッシュな少女を演じ、また一部を狂わせることになった(私もです・笑)
アズマサクラというネーミングはオマージュ元である「三つ首塔」のさらにオマージュ元である歌舞伎「桜姫東文章」からではないかと後に人から指摘を受けた。
森田ひかり(演:9歳時 日下部新 39歳時 美吉栄実里)
私は縄文杉シリーズを観たのは今回が初めて。
助手のピッカリが二代目であることは深く気にせず、亜由美や紀香と同じくシリーズキャラクターなのかと思っていた。
後になって紀香がピッカリの年齢を知らないなど付き合いはあまり長くないであろうことがわかるが。
少女のようなイメージだがピッカリは39歳。桜と同い年であることは偶然ではなかった。演者ふたりはトップスやデニムの色、サコッシュを提げていることなど雰囲気が似ていてピッカリが過去を思い出す場面ではああ!と感じさせた。
モリタンがうさぎのアップリケの付いたトップス、ピッカリがミッフィーのロゴ入りを着用していたりという共通点は後に人から指摘された。
潘任三郎(演:9歳時 高山タツヤ 39歳時 林正樹)
大人の彼は「謎の男」として登場する。「はんにんさぶろう」といういかにもあやしいネーミングは彼が少年フルハタであったことを連想させなかった。
9歳の彼はつまらないギャグや下ネタを言い、「宗兄弟」というあだ名を付け、おそらく桜というかわいらしい名前を意図的に避けて「アズ」と呼び始めたのではないだろうか。
「好きな子ほどからかいたくなる」という小学生男子の気持ちは相手によっては全く伝わらずに嫌われるだけのものだが、彼に恋をしたモリタンには気付かれていた。
アホな男子でも危機の時には好きな女の子を守ろうとする。そんな幼い三角関係はアズとモリタンのふたりを精神的にも肉体的にも傷付ける結果となった。
アズが上杉家に引き取られ、船橋に引っ越しても見守り続け、探偵となった彼でも追蓮村がダムの底に沈んだことは全く知らなかったことを人にツッコまれていたが、埼玉出身である私は小学生の頃に行田市のさきたま古墳公園に行ったことはあるが、行田タワー(2001年に建てられたらしい)のことは映画「翔んで埼玉」を観るまで知らなかったのでそういうものなんだよ。たぶん。
瀬古猛(演:宮内洋)
彼の存在には誰もが騙されていたのではないだろうか。
桜は仲良し6人組を「私・アズ・モリタン・フルハタ・ゴンタ・宗兄弟の6人」であり、夢は「私」の視点なので5人しか登場しないのだと思っていた。
実際は「アズ・モリタン・フルハタ・ゴンタ・宗兄弟(兄)・宗兄弟(弟)」だった。
猛は「宗兄弟」というあだ名をはじめは面白いと思っていたが直に嫌になり、同じ顔をした茂とゴンタが仲がいいことにも拒否感があった。
その感情は10年後も変わらず悲劇を招いた。
「宗兄弟は落ち着きがない」「いつも勝手にどこかに行く」というのは猛のことだろう。ふたりワンセットの彼らは茂がしっかりとした考えを持ついい子であっても、皆に迷惑をかける猛の行動で「宗兄弟はすぐ迷子になる」と言われるミスリードとなっていた。
瀬古茂(演:宮内洋)
桜の夢の中で宗兄弟は「うるせーよ!うるせーよ!」「聞いてないよ!聞いてないよ!」と同じことを2回言っていた。
「タケシシゲル」はひとりの人物ではなく「タケシとシゲル」という双子の兄弟だったという種明かしには皆驚いただろう。
6人の子供たちの中で兄弟だけは宮内さんがひとりで9歳・19歳・39歳を演じてきた。
「19歳も39歳も見た目の印象が変わっていない」というメタ的なものもあるだろうが、内面も茂は9歳の頃からしっかりとした子でそれは大人になっても変わっていなかった。
同性から友情だけではない好意を寄せられることはフルハタのように「気持ち悪い」と思うのが一般的な感性だろう。だが9歳の茂は好意を「人に好かれるのは嬉しい」と受け入れ、19歳で向けられる好意が恋情に変わっても受け入れていた。結果起こった悲劇もすべて自分で背負う責任感のある優しい人物。
彼には立派な総理大臣になってほしいですよ。ほんとに。
浅丘権太/リリー浅丘(演:田口博章→かみありつき)
身体は大きいが気の弱い少年は仲良しグループの中でも特に優しい子に好意を抱いた。その子は同性であった。どうして同性を好きになることは「気持ち悪い」と揶揄されるのか。
9歳の好意は19歳の頃には恋情に変わっていた。その気持ちは想い人の兄弟には理解されないもの。大人しい人間でも悪意を向けられて騙されて、本気でキレることもある。それは悲劇を招き、20年後に想い人を悩ませることになった。
権太は性転換手術を受け、妖艶な女の外見へと変わった。姉がいる彼には元から女性的なものがあったのか。世間の好奇の目に晒されずに茂の傍にいるために女性の外見を望んだのか。「女」になりたかったのかは作中では語られない。
気の弱い少年は恋情故に人を殺めた。大人になった「彼」は愛する人のために手を汚すことを厭わない。犯した罪をかぶってくれた「恩」か。自分を受け入れてくれたからか。
「昔の名前を捨てた」「昔とは変わってしまった」と言っていた時、リリーはモリタンが成長した姿なのかと思ってしまいました。
広海剛(演:長倉充幸)
ヒロミゴーでクリニック。ここは笑うところでしょう。
彼のネーミングのせいでタケシシゲルという人物がいるということに違和感を持たせなかった。
まあゲスなオヤジキャラで、リリーとのやりとりにはこいつは!こいつは!と思わせました。
ホテルの部屋でシャワーを浴びた後にバスローブ姿でえげつないことを言うのにはうわー!と思ったのでその後の展開は予想通り。
20年前には廃墟写真を撮りに行き、そこで若い男のある行動を偶然目撃し、写真を撮った。
それを通報するわけでもなく寝かせておいて、彼が20年後に政治家となった時に過去の写真を出してきて恐喝のネタとする。こうやって犠牲となった人は何人もいたんだろうなあ。
上杉欣造(演:山田純)
「上杉」で「欣造」でヒロインの養父!何も起きないわけがない!という期待を裏切らない人物。
少年期は姉に押さえつけられ、大学で雪子と出会い、尻に敷かれるようになった。
姉は雪子を危険な人物と見なして他の女性と結婚させた(29歳時には既に結婚していた)それでも雪子との間柄は断ち切れず、それは愛ではなく支配から逃げられなかった。
20代で義兄の会社の専務となり、その地位を利用して麻薬の密売を始めた。しかし義兄にバレ、保身のために雪子に言われるままに姉夫婦を事故に見せかけて殺害した。実際に手を下したのは組織の者。そんな取引をモリタンに目撃された。
それからどうするか?それは雪子に指示を受けないとだめな弱い男だった。義兄の会社を継いで、いずれは妻と別れて雪子と一緒になる。その予定だった。
しかし彼は姪を「娘」として迎えた。妻との間に子はいない。娘を愛し、父親として30年を過ごした。
娘を迎えて10年後に雪子には別れを告げた。それで幸せに父娘は生きていけるはずだった。でも犯した罪は償わなくてはならない。
斉藤雪子(演:大野陽子→ミハル)
遊園地のアトラクション「獄門塔」のたたり婆さん役キャストでもあった。
たたり婆さんが低く太い声でアズとモリタンを脅かす登場シーン。この演者さん誰?と思わせて「ベリベリ」での種明かし。
ルパンシリーズのソニア役や「黄金仮面」の不二子役など恋する可憐なヒロインを演じてきた大野陽子さんだったことに驚き!
婆さんとは違う凛とした声で子供たちに注意をし、階段から落ちたアズを見て適切に通報をするしっかりとしたお姉さん。
だけど高価な携帯電話を何故持っていたのか。アズの叔父であり既婚者である欣造とはどういう関係なのか。洞察力に優れていた少年フルハタ(後に探偵となる)は見抜いていた。
欣造を尻に敷き、彼の成すべきことを導く。それは正義とはかけ離れたもの。
そんな欣造も彼女から離れた。
頭のいい雪子は欣造に対しておかしな行動を取れば組織に始末されることを理解していた。だから長い間関係を絶った。
妻が死んでも欣造は戻ってこなかった。
だが桜はフルハタと共に自ら雪子を訪れてきた。自ら過去を教えてくれと言ってきた。
これは欣造との物語の第2章になるはずだった。
欣造は30年前と変わらずに山田さんが演じましたが、雪子役は別の人が演じたのは桜たちが会った雪子(59歳)は過去を知る→殺される→「たたり婆さん」はいなかった。アトラクションとして係員が扮していた→雪子(29歳)だった…という話の流れもあると思いますが、恋人だったこともある女は娘を始末しろと言うようになったという「変わってしまった」ということの表れなのかもしれない。
実際の彼女は昔も今も冷徹で変わっていないのだが、欣造にとっては捨て去りたい過去の女なのだから。
牛原紀香(演:吉村香澄)
吉村団長の演じるキャラクターは「牛」が付くそうです。
喫茶紀香のママは牛のアップリケのついたエプロンを着用しています。
亜由美とはどちらがボケでどちらがツッコミなのかな名コンビ。
台本には書かれていませんが、亜由美の「あたしシャカシャカポテト好きなのよねえ」という言葉に合わせて炒めたり揚げたりシャカシャカしたりしていました。
「はい。シャカシャカポテトプレーン味!」
…シャカシャカした意味は?マックのポテトみたいに塩味のみ?
(吉村団長によると「塩味も付いていない」そうです。謎だ・笑)
若村亜由美(演:山畑恭子)
女警部です。カッコいいです。
過去作ではナタで襲われたり、親友を撃ち殺したこともあるそうです。
「ゴクモントウ」と聞いて金田一耕助ものとは知っていても「湖から脚がニュー」と言うあたりミステリに詳しくはないのかもしれない。
年齢については指摘されなくても自ら反応する微妙なお年頃。
縄文杉良太郎(演:森本勝海)
シリーズ名探偵。知識は豊富。
桜+潘と欣造の対峙するところにピッカリを連れてきて「アズとモリタン」を再会させるいい役割。
桜=アズであることは当事者である潘が明かした。
欣造は自分からピッカリの勤める探偵事務所に依頼をし、自分から亜由美に組織の資料を渡して逮捕された。
なので「今回何か活躍しましたっけ?」と亜由美に言われていたけれど立派な主人公ですよ!
初代ピッカリは辞めた後も調査協力をしている。「給料三割増し」はごまかしたけれどちゃんと払っているのかな?ありがちな貧乏設定はなさそうな感じ。
物語の中盤に「もしかして出てくる大人は桜以外(とレギュラーキャラクター以外は)皆悪人なんじゃないか?」と感じさせました。
広海もリリーもただものではない。雪子は父の愛人であり、父は実の両親(彼にとっては姉夫婦)を殺し、麻薬の密売を行っていた。
政治家の茂にも殺人?の過去があり、潘も肝心なことは言わずに桜を連れ出したどう見てもまともな人間ではない(すみません)
そんな悪人の秘密を縄文杉探偵が解き明かし、最後は亜由美が逮捕する。そんな話なのか?と思いました。
全く違いました。
悪人は確かにいる。なんだかんだ言ってもわかっていて悪事を行った人間もいる。
だけど子供であるモリタンが「罰を受けないと」と言っていたようにだけど皆罪はなんらかの形で償っている。
「愛のために人は何ができるか」という物語であり「犯した罪は必ず償わなくてはならない」という物語でもありました。
最後は縄文杉とピッカリ、亜由美と紀香の4人で飲みに行くぞ!という明るいもの。
…と思わせて茂の絶叫で終わりました。
茂が自分のことを慕い続けたゴンタ/リリーを「愛して」いたのかはわかりません。
だけど彼にとってはかけがえのない「仲間」であったことは事実です。
恋愛や性愛の情を感じなかったとしても友としての愛は30年あったのです。
私は!こういうゴンタ/リリーのような一途な愛に弱いんですよ!!
本当に面白い話であり、泣ける話でした。笑って泣いて、よかったですよ!!
過去の事件については横溝文化祭さんのnote参照!