回路Rの朗読劇「ソニア三部作」と「黄金仮面」観てきました

池袋のライブハウス「池袋FIELD」では月に一度、第二木曜日に「ディオゲネスクラブ」として朗読劇を主としたイベントが開催されています。
朗読劇はミステリーが中心で、ホームズ、芥川、オリジナルといろいろな作品が語られ、有名な声優さんを間近で見られることも。

ディオゲネスクラブ | sherlock &mary

初めて行ったのは5月9日、ホームズもの「ボヘミアの醜聞」と夢野久作「死後の恋」でした。
(毎回そうなのですが、翌日に差し支えると困るので「ゆるやかさん」の前に退散しています…すみません…)
「死後の恋」は大好きな話で、回路Rさんの朗読劇「不死蝶」で玉造康雄役だった田口博章さんが「軍曹」役で出演されていました。
軍曹は「返事は『はい』か『ダー』だ!」という軍人キャラとしてコルニコフとリヤトニコフに関わるのですが、このせりふが終盤のキーとなるのですよ。

そして6/13「麗しのエディス」、7/11「ランバールの宝冠」、8/8「さらば愛しきソニア」と回路Rさんによるルパンもの朗読劇「ソニア三部作」が上演されました。
(余談ですが「ランバール夫人」は実在の人物です。マリー・アントワネット王妃の友人であり、「ベルサイユのばら」では名前は出てこないけれどこの人だろうなという人物が登場し、漫画「傾国の仕立て屋 ローズ・ベルタン」では重要な人物です。フランス革命で亡くなっているのですが、その詳細は閲覧注意です)

アルセーヌ・ルパンの物語には何人かの女性との恋も描かれていましたが、ロシア生まれのソニア・クリシュノフとの物語は2作書かれてその後彼女は登場しなくなり、どうも亡くなったらしいとのこと。そのあたりは実際には書かれたけれど発表されなかったのかどうかは謎。
30分という短い時間で会場も小さいところ。5人の演者+ピアノ演奏者というこぢんまりとした朗読劇ですが、これがとても面白かった!
まず、朗読劇(というか舞台劇)は出演者が限られています。庵野秀明監督の映画でしたら1分もしない登場シーンでも「○○という作品で△△役だった」という人がオタク心をくすぐるために出るでしょうが、舞台に立てる人には限りがある。
なので「パーティーに出席していた老若男女」をひとりの演者が演じ分けるということはよくあることです。だから舞台にずっと立っていた人が「実は●●という人物に成りすましていたシリーズキャラクター」という演出もありえるのです。

ソニア三部作は
高山タツヤさん:ルパン(という正体を隠して成りすましていた人物)
大野陽子さん:ソニア
山畑恭子さん:ビクトワール他
林正樹さん:ガニマール警部
森本勝海さん:作品によって異なる
という5人が中心となった物語です。
(ビクトワール「他」というのはある登場人物がとてもインパクトがあったのですが、ネタバレかなあ…)

怪盗紳士ルパンと、ロシアからやってきて、ひとりで生きていくために「そんなことをするくらいなら」と泥棒となったソニアがある事件で出会い、恋をし、ルパンの乳母ビクトワールや、ルパンの友人である記述者のモリスに受け入れられて幸せな時間を過ごし、ガニマール警部を出し抜いていきます。
ソニア役の大野さんは「不死蝶」でカツカレー南蛮を食べたい女中のお作さん役が印象的でした。
不幸な過去を持ち、ルパンと出会い、ある事情でルパンの元を去っていったソニアは三部作を見るともうみんな好きになるでしょう!
そしてソニアの退場は原作で書かれていないので、森本さんが書き下ろしました。
たった一度の30分の公演のために。
その物語はとても悲しく、美しく、そしてかすかな希望を持たせるものでした。
「死後の恋」にある部分でリンクしているんですよね。
(この感動は森本さんご本人には直接お伝えしました)
そして作中でルパンとソニアが別行動を取っていたのは「オランウータンだかゴリラだか人並外れた体格の持ち主」である人物との事件があったから。その作品は後日の配信の再に森本さんが言っていたのですが「水晶の栓」だそうです。

青空文庫の「新青年」掲載の抄訳
ここでは

顎骨の角張って突出しておる所はいかにも精力絶倫らしい相貌で、手はすこぶる大きく、両脚は曲り歩くたびに脊せを曲げて妙に腰を振る形態かっこうはちょうどゴリラの歩き振りを思わせる。とにかく獰猛な顔、頑丈な体格、相当蛮力を有もった男に違いない。

と描写されています。

ルパンとソニアの物語は3作で終わりましたが、続いて江戸川乱歩原作「黄金仮面」の上演が発表されました。
これはもう行くしかない!!!

そして9/21、池袋のスタジオ空洞にて14:00からと18:00からの2回上演されました。
これはもう2回行きますよ!
出演者はディオゲネスクラブに出演した5名+ピアノの熊谷香保里さんが続投し、他の作品でも登場されたあの方この方も!

怪獣男爵と共に行ってきました!

以下、黄金仮面の正体とかネタバレを含んで語ります。
原作との照合はしていません。

関係ないですがこの日は9月下旬なのに暑かったです…気温というよりも湿度が高い!

<登場人物>
明智小五郎:ご存知素人探偵(えっ!)柔道二段の変装の名手
小林少年:助手。少年だけど車の運転もしちゃう。柔道の心得がある
花崎マユミ:探偵事務所のお姉さん助手。柔道の心得がある
浪越警部:警視庁の敏腕警部。エドガー・アラン・ポーは知らない
ルージェール伯爵:フランスの大使。豪胆で美術に詳しい
鷲尾侯爵:日光の別邸に古美術品のコレクションを持つ
美子(よしこ)姫:侯爵の一人娘。婚約者は海外遊学中
小雪:小間使い。美子姫とは歳の離れた姉妹のような間柄
黄金仮面:金色の仮面を着けた巷で話題の盗賊
遠藤平吉:黄金仮面の弟子
大鳥夫人:大富豪大鳥氏の妻。娘のことで悩む
お豊:大鳥家の女中頭。不二子のことで泣く
大鳥不二子:大鳥家の令嬢。恋する乙女

黄金仮面は金色の仮面とフードの付いた足首までの長いマントを身に着けています。
ネタバレですが黄金仮面の正体はフランスからやってきた怪盗アルセーヌ・ルパンです。本物のルージェール伯爵は第一次世界大戦での戦死が伝えられていた通りで、ルパンは彼に成りすましていたのです。
演じるのはディオゲネスに続いての高山さんです。
明智役の林さんも高山さんも背が高いので、本物の黄金仮面と明智が扮した偽黄金仮面の格闘の場面は実際に組み合うわけではなく、不二子を中心として向き合ったふたりが左に一歩、また一歩。右に一歩…と動くことでどちらがどちらかわからなくなる上手い見せ方。

そして繰り返しですが朗読劇ではひとりの演者さんが複数の役を演じることはよくあります。
小林少年役の紅城文乃さんは「不死蝶」では矢部都役でしたが今回は少年役!リボンタイとチェックのスラックスでギムナジウムにいそうな美少年役でした。
メイドに扮する場面では「小林少年の変装」という設定に気付かなかったので二役だと思い、あ~メイド姿かわいいな~と見ていたらあやしい奴を一本背負い!(朗読です)、「女優が少年を演じ、その少年が少女に扮する」という複雑な設定でした。
マユミ役の日下部新さんはレトロな柄のオレンジ色のワンピースがかわいいお姉さんで、美子姫(入浴中につき一糸まとわぬ姿という設定ですがバスローブ着用)として出てきた時もああ二役なんだなと思っていたら「柔道の覚えでもあるのでしょうか」でえっ!となったらマユミが美子姫の身代わりに扮していたという設定。見る人は皆私のように単純ではなく「ああこれはマユミだな」とわかっていたのでしょうか。
そして執事の三好は白髪のかつらと声色を変えていてもこれは林さんだなとわかる。
では二役なのか。
浪越警部が三好は黄金仮面の変装であると指摘すると…音楽が流れ、かつらと変装を解除すると明智の姿に!
ドラマでの明智は別人のような顔のゴムマスクを剥がす通称「ベリベリ」が印象的ですが、こちらの明智は「バリバリ」と衣装を剥がすのです。
こちらの動画を参照してください。

(余談ですがこの池袋演劇祭はおそらく金~日曜に開催されたのだと思います。当時土曜の夜に友人がこの「恐怖王」を見たとツイートしていて、へえ私も翌日行こうかなと思っていたら翌日は雨だったのです。知らない劇団だしまあいいかと行かなかったのですが…「恐怖王」だったんだよ!!!あの時の私はなんというバカだったのでしょう…)

回路Rさんの舞台といえば黒子が印象的ですが、今回は「黒子」は登場しません。
代わりにその役割を果たしたのは天女のような白いドレスを纏う仮面の美女ふたり!
「ジュディでーす」(大鳥夫人役のミハルさん)
「オングでーす」(お豊役の山畑さん)
「「二人合わせて」」
「「ジュディ&オングでーす」」
と終演後に言っておりました。

終演後にお写真撮らせていただきました。サルは私、犬は探偵堂さんです。

「舞台の妖精」であるふたりは華麗に舞いながら登場し、ある時は黄金仮面の紹介で華を添え、ある時は変装スーツをバリバリと剥がし(音楽付き)、ある時は黄金仮面の逃走の手助けとなる「煙幕弾」を投げつける!もちろん地下のホールですので煙は出さず、ある方法でそれを表現します。
観た人たちの間では「バリバリ最高!」「私も煙幕浴びたい!」と大好評の演出です。
私は初回は最後列中央で後方彼氏ヅラで観ていたのですが、二度目の回は煙幕浴びたくて最前列中央を確保していました。最前列ってものすごく演者さんと近くて腕を伸ばしたら触れそうな距離でした。もちろん煙幕を浴びました。終演後に小雪役の吉村団長とお話させていただいたのですが「金運上がりますよ」と。わーい!

後方彼氏ヅラ
いわゆるドルヲタ用語で、ライブ会場で後方の目立たない位置から遠巻きに見守るように推しを応援するタイプのドルヲタを指す語。どちらかといえば蔑称。静かに会場の後ろに佇んでいるだけであり、周りに迷惑をかけるような振る舞いはしていないが、その「誰よりも推しを理解している」感に満ちた雰囲気は否定的に捉えられやすい。(weblio辞書より)

黄金仮面の日本人の部下に遠藤平吉がいたことは平山雄一氏「明智小五郎回顧談」でもそういった設定がありました。(そちらでは他に後に黒蜥蜴を名乗る女性もおりました)
遠藤は敵役なのでまあ憎ったらしいこと!演じる森山直弥さん(「扉の影の女」では多門修役として軽妙な演技を見せた)がそこは上手い!
小林少年を捕まえてもひどいことはしないで「ぐるぐる巻きにして放り出しておいた」という微妙な優しさ。
そして遠藤は後に怪人二十面相となる男。
小林少年と二十面相の因縁は北村想も書いていましたが、回路R版の二十面相のその後の物語も観たいですねえ。

原作を読み返さずに観たのですが、原作での黄金仮面はひどい奴だった印象がありました。これは終演後に語り手であり、脚本を手がけた森本さんにお聞きしたのですが「ディオゲネスでルパンは人を殺さないと言い切ったから」というのもあったようです。
ルパンと不二子は愛し合い、だけど明智によって正体を暴かれ、ルパンは盗んだお宝をフランスに持ち出すことはあきらめても不二子は連れて行くつもりだった。だけど明智はそれを許さない。
フランスからガニマール警部を呼び寄せ、ルパンを逮捕し、引き渡すつもりでいるけれど最終的にルパンの逮捕はあきらめた。だけど不二子は大鳥家に帰す。
不二子役は3ヵ月ソニアを演じてきた大野さん。お作(→病院横町のレスパネェ娘)→ソニア…と観てきたのでもうソニアが可愛くってたまらない!だけどソニアは退場してしまった。ルパンがソニアと同じ顔(なんて設定はありません)の不二子を愛するようになるのもわかる。
終演後には「人のものを盗んではダメ。だけどルパンと不二子には幸せになってもらいたかったな」と感じました。

ですが少し時間が経った今は思うところがあります。
ルパンの物語と明智の物語とこの作品の時期的な照合はしていません。
明智は海外にいたこともある人物です。東洋人が西洋人にどう思われるのかを実感したこともあるのかもしれません。
もし不二子がフランスに行ったとして、ビクトワールやモリスが受け入れてくれて、言語的・金銭的な問題が何もないとしても、そのまま幸せに暮らすことはできるのでしょうか。
アバンチュリエであるルパンは不二子を守ろうと思ってもずっと傍についていることはできないでしょう。
西洋人と東洋人、怪盗紳士と令嬢として何ひとつ不自由なく育った娘(ソニアは出会った時点で既に泥棒だった)、そしてルパンはいくつもの恋を経験してきた男。不二子はフランスでルパンの妻として生きていくことはできたのでしょうか。
もしかすると不二子はその後婿を迎えて大鳥家を継いだのかもしれません。
留学なりなんなりで両親を説得してフランスに渡ったのかもしれません。
誰かの手助けを受けてフランスに家出したのかもしれません。
どんな形でも後悔することなく、幸せに生きていってほしいヒロインでした。

いやほんと「その後の物語」がいろいろと観たくなる素敵なアレンジでした!
次の回路Rさんの公演は12月。
「あの日見た、生首が三つ四つある塔の場所に、僕たちはまだ辿り着けない」
これも観に行かなくては!!!

 

おまけ

終演後に出演者の皆様の写真を撮らせていただきました!団長さん顔隠れちゃった。

あーるちゃんと帰ってきたさーるちゃん師匠!

さーるちゃん師匠がグッズ化!
またさーるちゃん師匠に会えて嬉しい!!!

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