回路R「あの日見た、生首が三つ四つある塔の場所に、僕たちはまだ辿り着けない」観てきました

ミステリー専門劇団回路Rさん6年ぶりの演劇を観てきました。


千歳船橋APOCシアター
12月13~15日上演

13日19:30からの回と、14日14:00からの回を見ました。

ゴリラもいました。

わーい!あーるちゃんとさーるちゃんだ!

個人的に回路Rさんの作品は何の予備知識もなく1回目を見て、あっと感じ、それを踏まえて2回目に挑んで観たいものです。
14日には友人と並んで観たのですが、席に置かれたパンフレットを開こうとするのを「見ちゃダメ!」と止めました。
パンフレットの中には配役が書かれていました。事前情報では森本勝海さんがシリーズ主人公の縄文杉良太郎を、林正樹さんが「謎の男」を演じることしか流れていませんでした。
本当にそれ以外は知らない状態で見た方がいいと思いました。

回路Rさんの朗読劇は金田一もの、ルパンもの等々観てきましたが、舞台劇は初めて。それもオリジナルもの。
絶対面白いに決まっているけれどどんなものなのか。
期待はいい意味で裏切られました!
観終わったら皆、キービジュアルを見直すのは間違いない!

ミステリー好きは皆終演後に台本を買っていたので2日目夜にはなくなっていたのかな?
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「さらば愛しきソニア」もめちゃくちゃいい話だからルパン正典読んでなくても皆読んで!(それはどうなのか)

Just a moment...

以下、決定的なものは伏せますがネタバレを含みます。

<内容>
副団長にして脚本家であり演出家である森本勝海氏演じる探偵・縄文杉良太郎シリーズ。
シリーズキャラクターは山畑恭子さん演じる若村亜由美警部(カッコいい!)と吉村香澄団長演じる喫茶店のママ・牛原紀香。ギャグ色の強いミステリーだろうなあと思っていました。

実際の上演内容とは順番を入れ替えて語ります。

「30年前、私たち仲良し6人組は最後の冒険に出かけた。あの日を最後に私たちは6人組ではなくなったのだ」

縄文杉探偵に依頼が2件ある。
1件目は、イースト・コーポレーション社長の上杉欣造からのもので姪(姉の子)であり養女である桜が失踪したための捜索願い。
桜は39歳。30年前の出来事を最近夢に見るようになり、その内容を非公開ブログに記していた。
小学3年生の桜は仲良し6人組のひとりとしていつも仲間たちと一緒にいた。
ボーイッシュなアズ、キュート系でアイドル的なモリタン、やんちゃ小僧のフルハタ、身体は大きいけれど気が小さくて優しいゴンタ、猛茂(たけししげる)という名だからマラソンランナーにちなんで「宗兄弟」というあだ名の子。喧嘩もするけれどいつも一緒。その日は「獄門塔」に冒険に行った。
製氷工場で爆発事故があり、人が死んだ。獄門塔はその供養塔。そこには生首が三つか四つ祭壇に祀られ、塔に入り込んだ者は「たたり婆さん」によって氷漬けにされる。
子供たちは「誰から氷漬けにしてやろうか」と言われて怯え、モリタンはアズを婆さんの方に突き飛ばした。悲鳴を上げるアズの身体は徐々に凍っていく。

縄文杉の助手である二代目ピッカリは調査をしたが、50年前にあったという製氷工場の爆発事故の記録はない。
亜由美と紀香は「それは『ドラゴン危機一発』だ」と言う。(映画.comの作品紹介ページはこちら。1974年日本初公開)
突如ピッカリは激しい頭痛に苦しみ、救急搬送される。

桜は欣造不在時に家に入り込んだ謎の男・潘任三郎に導かれて獄門塔に向かっていた。

2件目の依頼はヒロミゴー…ではなく広海剛医師からのもの。脅迫状が届き、何者かに命を狙われていると告げる。黒衣の女(リリー)が確かに彼を付け狙っている。それは何のためか。

潘は獄門塔は実在するという。記憶障害で30年前のことを覚えていない桜は潘と共に獄門塔のことを知る女・斉藤雪子を訪ねる。雪子は桜を知っていた。人と会う用事があるので今日はだめだが明日にという約束をしたが、翌日雪子は殺害されていた。

かつて宗兄弟と呼ばれた茂は今は大臣になっている。リリーは過去に彼に恩を受けた。茂は20年前に死体を人知れず埋めたことがある。誰にも知られていないはずのその姿は写真に撮られていた。20年前のこととはいえ政治家にとってはスキャンダル。リリーは写真を撮った広海とネガを処分することを誓う。

縄文杉の調べでかつて小規模な遊園地があり、獄門塔はそのアトラクションであり、たたり婆さんはそのキャストであったことがわかる。桜は幼い頃に遊園地に行き、たたり婆さんに驚かされたのだろう。
そして仲良し6人組は廃墟巡りとして獄門塔に行き、そこでアズは階段から落ちて意識を失ったのだ。
かつて「アトラクションのお姉さん」であった雪子は30年前は塔の管理人だった。
侵入した子供たちを驚かそうとたたり婆さんの声色を使ったところ事故が起きた。
アズとフルハタはいつも口喧嘩をしていた。
アズはフルハタはモリタンのことが好きなのだと思っていた。
モリタンもフルハタが好きだった。
たたり婆さんの魔手から逃げるためにアズは自分がおとりになって皆を逃がそうとする。フルハタはアズにそんなことはさせられないと言う。フルハタはアズが好きだった。
「なんで今そんなこと言うのよ!」
「今しかないだろ!」
モリタンはパニック状態でアズを階段から突き落とした。
雪子の通報でアズは病院に運ばれた。
モリタンはアズを殺してしまったという自責の中、罰を受けなければならない、アズがもし生きていたら謝らなければならないと思っていた。その時に怪しい男たちが殺害計画の話をしているのを聞いてしまい、恐怖で逃げ出し、崖から落ちた。

広海とリリーは取引をすることになる。
ホテルの部屋で誰にも邪魔されることなどなくゆっくりと話をしようと。
広海の趣味は写真。睡眠薬で女を眠らせ、あられもないポーズを取らせるのが喜び。
だがリリーは薬などなくても進んでポーズを取ってくれるだろうと下卑た笑いを上げる。
リリーはナイフを振りかざす。

かつて獄門塔があった地は今はダムの底に沈んでいた。
潘と桜は塔に辿り着くことはできない。
ダムの底には何が眠っているのか。

<ポイント>
・「こんな夢を見た」というものは実際に見た夢ではなくそういうテーマの創作である可能性もある
・桜は日記として非公開ブログを使用していた。繰り返し見る夢は桜の実体験であると思われるが、記憶障害で当時の記憶はない
・フルハタはしょうもないギャグや下ネタをいう小学生男子あるある。あだ名のセンスがないのもあるある
・夢は必ずしも現実体験そのものではない
・宗兄弟は「たどんせいしょうがい」かもしれないと言われ、落ち着きがなく勝手にどこかに行ってしまうと言われている。しかし茂はしっかりとした自分の考えを持つ子
・女性キャラクターが何歳であるかはほぼ全員が何らかの形で描写される

<感想>
ギャグ要素もあるが、しっかりとしたサスペンスものだった。
テーマは「愛」と「自己犠牲」というか「献身」であると感じた。愛するもののために人は何ができるのか。
雪子の殺害犯人は途中でわかる。犯人当てミステリーというよりも、何故そういう行動を取ったのかという
桜の養父が「上杉」で「欣造」であることから横溝ファンには察せられるものがある。
ヒロインが突然現れた謎の男(僕を覚えていないのか、と言うので過去に関わりがあったらしい)と共に塔に向かうのもあの物語を思わせる。
睡眠薬を用いて女にあられもないポーズを取らせてそれを写真にっていうのも別作品にあったよねえ。
小学3年生は子供だが恋を知り始める年頃でもある。
人が誰かに好意を持つ。他者から見れば気持ち悪いものかもしれない。だけどそれを茶化すことは誰にも許されない。

30年も経てば人は変わる。
しっかりとした考えを持っていた少年は大臣になった。
おてんばな少女も、やんちゃな少年も、気の弱い子も変わる。

愛というものにはいろいろな形がある。
実子ではなくても子を思う気持ち、幼い初恋、何十年も人を慕う気持ち、支配欲…

この作品は映像化や朗読劇ではない「舞台劇」だからこそ描写できたものは大きいと思う。
30年前のキャラクターと現在のキャラクターはほとんどは別の演者が演じる。
例外は励造と茂で、励造は昔も今もある人物に悩まされ(だが逃げることはできない)、桜を愛しているということは変わらない。
茂は9歳の時も現在も他者に理解があり、少年フルハタに「将来総理大臣になれよ」と言われ、大人になり、政治家になった。
変わらないふたりを同一演者が演じたのは舞台劇ならでは。
そして桜の夢の中の宗兄弟は「なんだよそれ。なんだよそれ」というように同じことを必ず2回言う。その理由を序盤でわかった人がいたらすごいよ。

9歳の子供を大人の演者が演じる。ただ写真で見れば笑ってしまうようなものかもしれない。
だけど演者さんたちは素晴らしい演技で子供の無邪気さ、残酷さ、純粋さを表していた。
モリタン役の日下部新さんは「不死蝶」の由紀子、「黄金仮面」のマユミというような少女役を演じてきたが9歳の少女が恋を知り、でもその相手は自分ではなく友達の方が好き。友達も本当は彼が好きという悲しみや苦しさを見事な演技で見せていた。
自分のせいでアズが死んだかもしれない。その罰を受けなくてはいけない。おまわりさんに捕まり、牢屋に入れられ、死刑になるのかもしれない。もしアズが無事だったのなら謝りたい。だけど彼女は崖から落ちて記憶障害になった。
39歳の彼女にその記憶はない。真実を知り、苦しみ、その中で9歳のモリタンが大人になった自分を抱きしめて目を覚ませと語りかける。
30年ぶりにアズとモリタンは再会し、謝り、許す。
9歳のモリタンと39歳の彼女はよくよく見ると服装や小物に共通点が多く、序盤から「こいつら同一人物なんだぜ。わかるか?」と言われていたのだという驚き!
脚本を書いた森本さんは男性。どうして9歳女子の気持ちがこんなにも表現できるのか!すごい!

演者さんのすごさと言えばたたり婆さん。序盤から登場し、メタ的に演者さんは誰だろうと思わせる。
男性…ではない?こんな不気味な声を出せるのは?途中でおなじみの「ベリベリ」で婆さんの服を脱ぎ、白髪のかつらと不気味なマスクが剝ぎ取られる…あなたでしたか!!!
今までに見てきた役柄とは全く違う役を演じ、違う一面…いや、雪子としての二面?そして雪子も子供たちに接する時と「彼」に接する時は違うから三面?とにかく、役者さんのすごみを感じました。

そしてスーパーネタバレになるのでここでは語りませんが、リリーが茂を愛していると語る場面。
私は!こういう愛ゆえの犠牲にものすごく弱いのですよ!
茂の過去の罪は何のためか。リリーは茂をいつから愛していたのか。これは今の時代ならではのものだろうなあ…

回路Rの他作品を見てきたから、オマージュ元である横溝作品を知っているから、これは人と語りたい!
千秋楽後の16日(月)に友人たちとXのスペースで語り合いました。演者さんたちに聞かれて。ちょっと恥ずかしいね。
録音はこちらです。

x.com

私の(声の低い女)が言っていることはともかく、他の方の洞察力はすごいですよ!
ヒロインの本名に秘められた意味…そうだったのか!と驚きました。

私は縄文杉シリーズを知りません。
だけど「亜由美がナタで襲われた事件」については「病院横町の殺人犯」シナリオ本(現在品切れ)掲載の座談会で読みました。

森本勝海脚本集「シナリオ 病院横町の殺人犯」 - MM PROJECT SHOP - BOOTH
ミステリー専門劇団 回路R 副団長・森本勝海氏初の脚本集! ミステリー専門劇団 回路R 森本勝海脚本集  シナリオ 病院横町の殺人犯 (MM PROJECT文庫) 文庫版 カラー口絵4P 含む 全312ページ ・主要キャスト写真 ・シナリオ...

こちらに掲載された座談会の再編集版(「あの首」キャストも反映!)は横溝文化祭さんのnoteにて公開されています。

【“あの首”上演記念】特別公開 回路R座談会|【MM PROJECT】Voice & Book note
はじめに ミステリー専門劇団回路Rさんの公演 回路Rサスペンス劇場「あの日見た、生首が三つ四つある塔の場所に、僕たちはまだ辿り着けない」(以下、“あの首”) が、大好評のうちに千秋楽を迎えられました。 これを記念しまして、MM PROJEC...

必読ですよ!

そして12/14には「男と女のサスペンス寄席」も行われました。
回路亭しん劇としての森本さんの別の顔(赤い着物が粋!)と女性噺家さんによる噺を堪能!

x.com

乱歩の「黒蜥蜴」を10分で語る!これはすごかったよ!
パンフレットに載っていた今後の予定。楽しみです!

(12/22追記)
ネタバレありでも語りました。長いよ!

【ネタバレ】「あの首」をミステリーとして楽しむ
ミステリー専門劇団回路R公演「あの日見た、生首が三つ四つある塔の場所に、僕たちはまだ辿り着けない」は優れたサスペンス作品でした。ネタバレを抑えた感想を別に書きましたが、やはりネタバレについても語りたい!!そんなわけでネタバレ全開です。台本は...
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